隣地境界線とは、自分の土地と隣の土地を区切る境界を示す線のことです。解体工事では、この隣地境界線を正確に把握しているかどうかが非常に重要で、工事中のトラブルの有無に大きく影響します。
実際、解体工事で起こるトラブルの多くは、隣地境界線に対する誤解や認識違いが原因です。境界線がずれてしまうと、隣地の構造物を壊してしまったり、補修費用が発生したりするなど、思わぬ問題に発展することがあります。
そこで今回は、隣地境界線や境界杭の基本から、解体工事で起こりやすい境界トラブル、正しい隣地境界線の確認方法、そしてトラブルを未然に防ぐためのポイントまでを、現場目線で解説していきます。
境界線や面積を調べる空き家の現地調査の様子はこちらの動画でも解説しています。ぜひこちらも合せてご参照ください。
隣地境界線とは

隣地境界線とは、隣り合う土地同士の所有権を区分するための線のことです。ただし、実際の土地には「線」が引かれているわけではありません。境界を示すのはあくまで「境界標」と呼ばれる“点”であり、その点と点を結んだものが隣地境界線として扱われます。
隣地境界線が解体工事に深く関係してくる理由は、工事の作業範囲や重機の侵入可能な領域が “境界線を基準に決まる” からです。解体工事は大きな重機を使いながら建物を撤去していくため、作業スペースを誤ってしまうと、隣の家のスペースに侵入してしまったり、壁や堀の破損につながるリスクがあります。
具体的には、次のような点で隣地境界線の正確な把握が欠かせません。
- 隣地のブロック塀やフェンスを誤って撤去しないため
- 解体後の整地範囲を正しく決めるため
- 境界を侵害した場合の損害賠償トラブルを避けるため
境界が曖昧な状態で解体を進めてしまうと、「そこはうちの土地だ」「壊された」「修理代を払ってほしい」など、隣地とのトラブルに発展するケースが非常に多いのです。隣地境界線を正しく理解することは、解体工事の安全性だけでなく、近隣との良好な関係を守るためにも欠かせない作業なのです。
建物や土地の「境界標」の種類
境界線には隣地境界線の他にも、道路境界線と敷地境界線というものがあります。これらの境界線もまとめて押さえおきましょう。

| 境界線の種類 | 説明 | 主な役割 | 解体工事との関係 |
|---|---|---|---|
| 隣地境界線 | 自分の土地と隣の土地を区分する線。境界標(境界杭)を結んで示される。 | 隣地との所有権を明確にし、塀やフェンスの所有者を判断する基準になる。 | 解体範囲の確定、隣地破損防止、養生・手作業範囲の判断などに直結する最重要の境界。 |
| 敷地境界線 | 自分の土地全体を囲む境界のこと。隣地境界線・道路境界線を含む総称。 | 敷地全体の形状や広さを示す。土地の価値や建築計画の基準となる。 | 解体後の整地・新築計画に影響。土地全体の工事範囲を明確化する際に重要。 |
| 道路境界線 | 自分の土地と道路(公道・私道)の境界を示す線。道路管理者が定める。 | 敷地と道路の関係を明確にし、セットバックや接道義務(建築基準法)の基準になる。 | 重機の出入口・仮囲いの設置・道路占用の範囲など、施工計画に大きく影響する。 |
境界杭とは

境界杭(きょうかいくい)とは、境界線の位置を示すために地面に打ち込まれている標識です。前述の「境界標」と呼ばれるものであり、材質はさまざまです。杭には「×」「+」「点」などの刻印があり、その中心点が境界を示しています。
境界杭が残っていれば境界線の確認はスムーズですが、古い住宅では 撤去されていたり、工事で埋まってしまっていることも多いです。そのため、境界杭が見つからない場合は、後述する「住宅地図」や「公図」を参照して確認します。
ただし、住宅地図や公図が無い場合などは、境界標を復元するために境界標を元の位置に戻すには、土地家屋調査士へ依頼し、測量をしなおす必要があります。
境界線の確認方法
正しく隣地境界線を把握もしくは設定するためには以下の4つの方法があります。境界線の確認は本来、解体業者側で対応するものですが、解体業者の中には境界線を曖昧にしてしまう業者もいるため、施主側でも確認方法を押さえておきましょう。
①境界杭を探して確認する(最初に行うべき基本作業)

最も最初に行うべきなのが、現地で境界杭を探す作業です。境界杭は、土地の境界を示すために地面に埋め込まれた小さな標識で、敷地の四隅やブロック塀の角、敷地境界に近い地面などに設置されています。
解体業者は最初に、見積りのための現地調査のときにこの境界線を確認します。境界線を確認し、測量することで正確な見積りを作成できるからです。逆に、見積りの際に境界線を確認しない業者は、作業もアバウトに進める可能性があるため、注意が必要です。
境界杭が見つかれば、隣地境界線の確認は非常にスムーズに進みます。実際の工事も、この境界杭を基準に範囲を確定します。しかし、古い住宅や過去に何度も工事が行われた土地の場合は、見つからないこともしばしばあります。見つからない場合は次のステップへと進みます。
②公図(法務局の地図)を確認する【参考資料として活用】
境界杭が見当たらない場合は、法務局で発行される公図(こうず)を確認します。公図とは、土地の位置関係や形状を示した地図のことで、境界線の参考資料になります。
なぜ参考資料にしかならないのかというと、古い公図は精度が低く、実際の境界と数十センチずれることも珍しくありません。そのため公図はあくまで、「境界のおおまかな位置」を確認するための資料であり、境界を確定させる情報としては不十分な場合があります。その場合、次のステップで正確な資料を確認します。
③測量図(境界確定図)を確認する【最も正確な資料】
過去に土地の測量が行われている場合、測量図(地積測量図・確定測量図)が存在することがあります。これらの図面には、「境界杭の正確な位置」「各点を結ぶ角度や距離」などが詳細に記載されており、公図よりはるかに精度の高い資料です。もし手元にない場合は、法務局や不動産会社に問い合わせることで入手できる可能性があります。
④専門の土地家屋調査士に依頼する(最終手段)

境界がどうしても分からない場合や、それにより隣地との関係でトラブルが起きそうな場合は、土地家屋調査士へ依頼するのが最も確実です。土地家屋調査士は、境界に関する専門資格を持つプロで、現地での境界調査⇒公図・測量図の確認⇒隣地所有者との立会い⇒市役所や道路管理者に確認⇒境界線の正式な確定を行います。
これにより、曖昧だった境界が法的にも明確なものとなり、解体工事でも隣地トラブルを極力ゼロに近づけることができます。ただし、20〜40万円程度の費用が発生するため、依頼は最終手段的な立ち位置になっています。
解体工事で起きやすい境界トラブル
境界線の基礎知識を押さえたところで、解体工事で起こりやすい境界トラブルについて押さえおきましょう。よくある事例を4つご紹介します。
①境界を越えて解体してしまう(隣地破損トラブル)

最も多いのが、境界線の誤認による隣地の破損です。境界を正しく理解しないまま重機を入れると、本来触ってはいけない隣地の構造物に影響が及ぶことがあります。具体的には、以下のようなトラブルがよくあります。
- 隣地所有のブロック塀を壊してしまう
- 隣地の建物や塀の土台部分の土を掘り返してしまう
- 隣地の庭木・植栽を倒してしまう
隣地所有物への損害は、補修費・修繕費の負担問題に直結し、最悪の場合は損害賠償として数十万円〜数百万円のトラブルに発展することもあります。解体工事の中でも、最も注意すべきポイントと言えます。
②解体後の整地面が隣地より低い・高い問題

建物を撤去したあとの整地作業でもトラブルが起きやすく、その原因の多くは境界を正しく把握していないことと、境界のルールを把握していないことです。
これにより、例えば、以下のようなトラブルが起こります。これらは解体した後に発生するトラブルであるため、特に注意が必要です。
- 自分の土地だけ深く掘りすぎてしまい、隣の家の基礎部分の土が流出してきてしまった
- 境界付近を削りすぎて隣地との段差ができてしまった(危険性が増した)
- 土を盛りすぎて隣地より高くなり、排水がうまくいかず雨水が隣地に流れ込む
これらを防ぐために、境界線には建築基準法や民法はさまざまな規定が定められています。以下は代表的な法令です(この他にも様々なルールがありますので、詳しくは解体業者や専門機関にご確認ください)
民法第234条(建築物の隣地後退距離:50cmルール)
境界線から50cm以内の位置に建物や工作物を建てる場合、隣地所有者の同意が必要とされる規定です。解体後の建築計画にも関わり、隣地との距離を守らずに建てると、後から撤去を求められる可能性があります。
建築基準法施行令 第144条の4(擁壁などの構造基準)
境界付近にある擁壁(がけや段差を支える壁)は安全基準があります。
③ブロック塀やフェンスは誰の所有物か問題(所有権トラブル)

解体工事で非常に多いのが、「境界にあるブロック塀・フェンスは誰のものか?」という所有権のトラブルです。よくあるケースは、「この塀はうちの所有物だから壊しても良い」「いや、それは隣の土地のものだ」といった認識のズレです。
ブロック塀は、中心が境界線をまたいで設置されている場合や、誰が作ったか分からない古い塀の場合も多く、所有権が曖昧なケースが非常に多いのが実情です。曖昧なまま撤去してしまうと後から大きなトラブルとなるため注意が必要です。こちらも民法でルールが定められています。
民法第236条(塀や垣の所有と費用分担・高さの基準)
境界線上に設置された、ブロック塀、生垣、フェンスなどの所有権は「双方の共有」とされ、高さや構造にも基準があります。一般的に高さ2m以下、費用は共同負担、境界線上にある場合は勝手に壊してはいけない、というルールがあります。
④境界杭を重機で壊してしまう(再設置費用トラブル)

境界を示す「境界杭」は、法的にも重要な役割を持つ公的な標識です。ところが、境界杭は小さく見つかりにくいため、重機で誤って壊してしまうケースが少なくありません。
境界杭を破損すると、再設置費用(1点あたり数万円〜)を求められることが多く、場合によっては隣地所有者との立ち会いで再測量が必要になることもあります。
境界杭の破損は予期せぬ費用の発生だけでなく、「境界線が分からなくなる」という重大な問題につながるため、解体業者は事前の設置場所の確認と養生(保護)が欠かせません。
境界トラブルを防ぐためのポイント
境界問題は、解体業者側と施主側の事前準備と確認によって、ほとんどのトラブルを未然に防ぐことができます。ここでは、境界トラブルを避けるために「やっておくべきこと」「気をつけるべきこと」を具体的にご紹介します。
①解体前に必ず境界杭の有無を確認し写真を撮っておく

境界確認は、境界杭がどこにあるかを把握することです。把握のおすすめとしては、解体業者の現地見積りの際に、解体業者と一緒に確認されることをおすすめします。一緒に確認することで、認識の齟齬を防げます。
- 四隅、ブロック塀の角、地面の端を丁寧に確認
- 見つけた境界杭は破損しないよう養生やマーキングをする
- 写真に残しておくと後のトラブル防止に役立つ
おすすめの対応は工事に入る前に境界杭を写真でしっかり残しておくことです。万が一、工事ミスなど不意の事故が起きたときの証拠になりますので、業者側、施主側両方が写真で残しておくと安心です。
②隣地の所有者へ事前に説明・挨拶を行う

境界が絡む工事は、隣地とのコミュニケーションが最も重要です。解体工事前には、前後左右など周囲の家々に挨拶を行うことが一般的です。その際に、以下のことを伝えましょう。解体業者に任せることもできますが、可能であれば施主様もご一緒にご同行いただけるとより確実です。
さらに、境界付近にあるブロック塀やフェンスは、所有者の確認が非常に重要です。曖昧なまま撤去すると、「勝手に壊された」「修理費を払ってほしい」といったトラブルにつながります。可能であれば工事前の事前挨拶や見積りの段階で、隣地の所有者といっしょに確認ができるとベストです。
- 解体工事の日程
- 境界確認の状況
- 外構の取り扱い(塀、フェンス、樹木など)
- 境界で発生する高低差の説明(掘りすぎない、上げすぎないなどの説明)
- 重機作業を行うことへの注意点など
③境界付近への作業の配慮・養生の徹底

この作業は業者側が対応することになりますが、施主側でもこれらがきちんと徹底されているかチェックしましょう。任せきりではなく、施主様自らも責任を持つ姿勢で対応いただけるとより安心です。
境界杭・塀・フェンスを養生して保護する
境界付近は、養生シートなどで保護し、物理的な接触が起きても破損しにくい状態を作ります。特に境界杭は壊すと再設置費用が発生するため、事前に目立つようマーキングし、重機オペレーターに位置を徹底共有します。
場合によっては重機ではなく手作業に切り替える
境界線ギリギリの箇所は、重機を使うとどうしても操作が難しくなります。安全を最優先するため、場合によっては小型重機を使用したり、手作業で作業することもあります。特に境界付近の塀などが老朽化している場合などは、このような作業提案が必至です。
もしも境界トラブルが起きてしまったら
どれだけ注意を払っていても、境界に関するトラブルが完全にゼロになるとは限りません。万が一、境界杭の破損や隣地の構造物への接触などのトラブルが発生した場合は、初期対応の早さと誠実さがトラブルの深刻化を防ぐカギとなります。
①まず作業を止め、現場の状況を保存する

トラブルが起きた際に最優先すべきことは、作業を一旦中断し、「何が起きたのか」「どれほどの破損なのか」 を正確に把握することです。また、確認の際に、写真・動画で現場の状態を記録するようにしてください。
隣地からクレームが入ったときにはすぐに作業を中止するように念を押して業者に伝えておきましょう。そして、業者側、施主側の双方で以下の箇所をいっしょに確認してください。
- 破損箇所の確認
- 破損した理由
- 作業ミスか構造上の問題か
- 再発防止のためどのような対策を行うか
状況を正確に知ることで、後の説明がスムーズになります。また記録がないと、後に「誰が壊したのか?」が曖昧になり、トラブルが長引きがちですので写真は必ず残しておきましょう。
②隣地所有者へすぐに報告する
破損を隠すのは最悪の選択です。気づいた時点や、原因が判明した時点(隣地の所有者の方からクレームが来た場合)で、誠実に隣地所有者へ状況を説明します。破損の詳細、発生の原因、今後の対応の方針(弁償など)を明確に伝えることで、余計な不信感を避けることができます。
そして、一方通行の説明では誤解が生じやすいため、できる限り三者で現場に立ち会い、確認できるとベストです。現場を確認しながら、認識のズレがないか確認し修繕の方向性を話し合うことで合意が取りやすくなり、トラブルが最小限になります。
③必要に応じて専門家へ相談する
それでも、ミスの度合いや賠償問題などで、問題が大きくなることもあります。そうなった場合は、第三者の専門機関に相談しましょう。相談先としては、次のような機関があります。
自治体の無料法律相談センター
境界に関するトラブルは解体工事以外でも非常に多いため、多くの自治体で専門の相談窓口が設けられています。これらの専門家に頼ってアドバイスをもらうようにしましょう。
解体業者が加入している工事保険会社
ほとんどの解体業者は、このようなトラブルが発生したときのために、工事業者専門の保険会社と契約しています。弁償などが発生する場合、解体業者と相談し、保険会社も交えて相談するとスムーズに補填などの話が進みます。
弁護士・法テラス(損害賠償問題が絡む場合)
境界トラブルが損害賠償の問題に発展した場合、当事者同士や業者との話し合いだけでは解決できないケースがあります。そうなったときの最終的な相談先として、弁護士のサポートが必要になることがあります。
弁護士は、境界問題や損害賠償に関する法的な判断を行い、適切な対応方法を明確に示してくれます。経済的な理由で弁護士相談が難しい場合は、法テラス(日本司法支援センター)を利用することで、無料相談や費用の立替え制度を活用することができます。
境界問題は専門性が高く、個人だけで判断するとさらにトラブルを招くこともあります。大きな問題になりそうな時は、早めに専門家へ相談することが最も賢明な選択です。
また私たちウラシコにもぜひお気軽にご相談ください。第三者の解体業者の立場として、現場経験に基づくアドバイスをさせていただきます。
まとめ

解体工事において、隣地境界線の正確な把握は最も重要なポイントです。境界が曖昧なまま工事を進めると、隣地破損、整地の高低差、塀の所有者問題、境界杭の破損など、大小さまざまなトラブルへ発展する可能性がありますので、業者に任せきりにせず施主様もルールを押さえておきましょう。
ウラシコでは、隣地境界線への十分な配慮を徹底し、安全でトラブルのない解体工事を行っております。境界確認・養生・隣地への配慮(挨拶)など、細かな点までしっかり対応いたしますので、どうぞ安心してお任せください。

